AIで競艇の予測モデルを改良しようと、5つの案を試して、5つとも不採用にしました。その記録が「不採用モデル研究ノート」の連載です。
5本を並べてみると、失敗の形はほとんど同じでした。過去データでは良く見えたのに、翌年に確かめると崩れる、というパターンです。これは競艇に限らず、売上予測でも需要予測でも、AIで予測モデルを作る人なら誰でも踏みうる罠です。
この記事では、5つの不採用案を振り返り、そこから分かった「過去データの罠」を見抜く5つの教訓をまとめます。
この記事のポイント
- 過去データで良く見えるルールほど、翌年に崩れやすい
- 学習データを都合よく絞ると、かえって弱くなる
- 1つの指標だけで最適化すると、ほかの大事なものが壊れる
- 迷ったら、複雑な改善より単純な形を選ぶ
検証のやり方:選ぶ期間と、確かめる期間を分ける
5本とも、同じルールで検証しています。
- ルールを選ぶ期間: 2024〜2025年のデータ
- 確かめる期間: 2026年のデータ(選ぶときには一切使わない)
- 数字の意味: どれも学習に使っていない期間で計算し直した値で、実際の運用成績ではない
基準になる数字も先に決めておきます。3連単は控除率が約25%なので、売れている割合どおりに買えば回収率は約75%になります。つまり75%を超えたかどうかが「予想に意味があるか」の最初の目安で、100%を超えるのは非常に難しい、というのが前提です。
不採用にした5つの案
| 回 | 試したこと | 結果 |
|---|---|---|
| #1 | 穴モデルで安い買い目を切る | 回収率の差は1〜2ポイントで、誤差の範囲 |
| #2 | 決まり手で学習データを絞る | 既存モデルに届かず、正解の順位も悪化 |
| #3 | 直前情報で「荒れるレース」を探す | 力関係が崩れても万舟の率は約19%で変わらず |
| #4 | 直前補正を強く・細かくする | 細かい補正は翌年に効果が消えた |
| #5 | 改良を全部まとめた新Hybrid | 回収率は上がったが、的中率13%・72連敗 |
ここからは、5本に共通していた教訓を1つずつ見ていきます。
教訓1:過去データで良く見えるルールほど、翌年に崩れる
連載の#1では、穴モデルの買い方を絞るルールを候補から探しました。2024〜2025年だけを見ると、回収率90%を超えるルールがいくつも見つかりました。ところが2026年に同じルールを当てると、軒並み80〜85%に下がりました。
極端だったのが、次のルールです。
| 年 | 回収率 |
|---|---|
| 2024年 | 53.8% |
| 2025年 | 200.8% |
| 2026年 | 73.6% |
平均すると良く見えますが、実態は「たまたま大きな配当が1〜2本あった年」があっただけでした。候補をたくさん試せば、偶然に上振れしたものが必ず混ざります。選んだ期間とは別の期間で確かめることが、この罠を避ける唯一の方法です。
教訓2:学習データを都合よく絞ると、かえって弱くなる
連載の#2では、荒れるレースに強い穴専門モデルを作ろうとしました。まくりや差しで決まったレースだけを学習させれば、「攻めが決まる形」を覚えるはずだ、という発想です。
結果は逆でした。学習できたのは全体の約37%のレースだけで、得意なはずの「攻めで決まったレース」でも、正解の買い目を既存モデルより下の順位に置いていました。逃げで決まったレースでは、正解が平均103番目で、ほぼ当たりません。
目的に合うデータだけを集めれば強くなる、とは限りません。データを減らすと、それだけで不利になることを忘れがちです。
教訓3:効く情報でも、効く方向が違うことがある
連載の#3では、展示タイムなどの直前情報で艇の力関係が崩れたレースほど荒れるのではないか、と考えました。14万6,201レースで調べたところ、直前情報そのものは確かに効いていました。展示で順位を上げた艇は、事前の予想よりはっきり多く勝ちます。
ただし、効くのは「本命がより当たる」方向でした。力関係の崩れ方が大きくても小さくても、万舟の率は約19%で変わりません。崩れると「別の艇が新しい本命になって、その本命が来る」だけで、混戦にはならなかったのです。
情報に意味があることと、自分の目的に使えることは別です。効いている方向を確かめずに使うと、的外れな改善になります。
教訓4:1つの指標だけで最適化すると、ほかが壊れる
連載の#5では、それまでの改良を全部まとめた新しいHybridを作りました。予想の精度ははっきり良くなり、上位6点に正解が入る率は約29%から約37%に上がりました。
問題は、「何点買うか」を回収率だけで決めたときに起きました。
| 2026年 | 旧Hybrid | 新しい版 |
|---|---|---|
| 平均点数 | 16.2点 | 1.5点 |
| 的中率 | 52.0% | 13.2% |
| 回収率 | 76.8% | 81.1% |
| 最大連敗 | 17 | 72 |
回収率は4ポイント上がりましたが、7〜8レースに1回しか当たらず、72連敗もします。調べると、回収率が上がったのは予想が上手くなったからではなく、割に合わない買い目を買わなくなっただけでした。荒れたレースで高配当を拾うという、本来の役割も果たしていませんでした。
1つの数字だけを追うと、その数字は上がっても、ほかの大事なものが壊れます。 最適化する前に、崩してはいけない条件を先に決めておく必要があります。
教訓5:迷ったら、複雑な改善より単純な形を選ぶ
連載の#4では、直前補正を艇番ごとに変える、1号艇だけ特別扱いする、大きく動かす補正だけ弱める、といった細かい調整を試しました。どれも2024〜2025年では良くなったのに、2026年にははっきりした改善として残りませんでした。
現象そのものは2年とも同じ向きに出ていました。それでも、細かい区分を増やすほど、過去データの偶然に合わせてしまいます。TAKENOKO BOATでは、複雑な補正が単純な補正に勝てないときは、単純な方を採ると決めています。
それでも、残ったものはある
5本とも「不採用」でしたが、何も得られなかったわけではありません。
- 直前補正は、単純な形のままで効いていることが確認できた
- 穴モデルの補正を強める案は、翌年も改善が続いたので候補に残した
- 予想を混ぜる土台(本命モデル75%+穴モデル25%)は、予想の精度をはっきり上げた
- 本命が勝ったとき、すぐ外の艇の2着を予想が約1.3倍少なく見ている、という大きな「ずれ」が見つかった(次の研究テーマ)
筆者の判断:なぜ不採用の案を公開するのか
この連載を始めたのは、うまくいかなかった理由にこそ、予想の難しさが詰まっていると考えたからです。成功した改善だけを並べると、過去データの罠にはまった数字まで「成果」に見えてしまいます。
5本を通して決めたルールは、次の2つです。
- 回収率が上がっても、ほかの大事なもの(的中率やモデルの役割)が悪くなる候補は採らない
- 複雑な改善が単純な形に勝てないなら、単純な方を採る
AIで予測モデルを作る人へのチェックリスト
競艇以外の予測にも使える形にまとめました。
- ルールを選ぶ期間と、確かめる期間を分けているか
- 「何もしなかった場合」の基準の数字(今回なら75%)を先に決めているか
- 良い結果が、特定の年や数件の大当たりに頼っていないか
- 学習データを絞ったことで、データ量が大きく減っていないか
- 改善した指標のかわりに、悪くなった指標がないか
- 同じ結果なら、より単純な方法を選んでいるか
まとめ
- 5つの不採用案は、どれも「過去データでは良く見えた」ものだった
- 選ぶ期間と確かめる期間を分けると、偶然の上振れを見抜ける
- 1つの指標だけで最適化せず、崩してはいけない条件を先に決める
- 迷ったら単純な形を選ぶ。不採用の理由を残すことが、次の改善の材料になる
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- 33通り試して、28通りは全敗だった
よくある質問
Q. 予測モデルの検証で、いちばん大事なことは何ですか?
A. ルールやパラメータを選ぶ期間と、それを確かめる期間を分けることです。同じ期間で選んで確かめると、偶然に上振れした結果を「改善」と勘違いしやすくなります。
Q. 回収率が上がったのに採用しないのはなぜですか?
A. 回収率を上げるかわりに、的中率が大きく下がったり、モデル本来の役割を果たさなくなったりしたためです。1つの指標だけで判断しないようにしています。
Q. この記事の数字は、実際に舟券を買った成績ですか?
A. いいえ。過去のレース(主に2024年1月〜2026年8月)を、学習に使っていない期間で計算し直したものです。舟券の購入は、ご自身の判断と責任でお願いします。



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