TTGC世代の戦い(古馬編)

世代

古馬となった1976年クラシック組、通称TTGC世代の対決です。この世代はとてもレベルが高く、上の世代も下の世代も圧倒してしまいます。

クラシック時代の戦いはこちら

春の天皇賞戦線

天皇賞路線は年明け早々に開幕、有馬記念を回避したグリーングラスとクライムカイザーがAJCCで激突した。前年の天皇賞馬のアイフルも出走しており、初の古馬との対戦となるグリーングラスにとっては試金石となった。レースは中団に待機したグリーングラスが3角から仕掛けて早めに先頭に立ちそのまま押し切るという横綱相撲を見せ、菊花賞はフロックではなかった事を証明する。クライムカイザーは完敗の5着、アイフルが3着に入った。

続く目黒記念にもグリーングラスは60㎏のトップハンデを背負って1番人気で出走、クライムカイザーも58㎏で出走する。しかしレースではも軽ハンデの関東の新星カシュウチカラに足元を掬われてしまう。一流馬たるもの重い斤量を背負って勝ち切ってこそ。グリーングラスのプライドは痛く傷つけられてしまい新たな因縁が産まれる。

一方3歳4強で唯一無冠で終わったテンポイントにとっては京都で行われる春の天皇賞ではどうしてもタイトルが欲しかった。古馬の始動戦となったのは京都記念、天皇賞馬エリモジョージや京都大賞典勝ちのパッシングベンチャなどがいたが、テンポイントが圧倒的な一番人気となる。レースは5㎏の斤量差もあり格下のホシバージがしぶとく食い下がるもテンポイントが快勝。続く鳴尾記念も朝日CCに勝馬ケイシュウフォードに迫られるもきっちり勝ち2連勝。ライバル不在では負けられない戦いだった。なお鳴尾記念にはクライムカイザーも出走していたが、全然ダメだった模様。

一方みんなのライバルトウショウボーイは秋からの連戦で疲労が蓄積し、骨瘤が出たためしばし休養に入っていた。春の天皇賞には出走予定であり西下はするが状態は上がらずに無理をせず回避、ただし関東には帰らずに宝塚記念に目標を切り替える。

そして本番、有力馬はやはり昨年の菊花賞馬グリーングラスと大舞台で2着続きのテンポイント。テンポイントにとっては菊のタイトルを掻っ攫われた憎き相手だ。しかし充実期を迎えていたテンポイントはトウショウボーイ以外に負けるわけにはいかない。グリーングラス得意の長距離戦だが地元京都で何度も同じ相手に負けるわけにはいかなかった。調子を落としていたクライムカイザーも犯罪皇帝で終わりたくない、再びトウショウボーイのライバルとして名乗りを挙げるべく勝負を挑む。グリーングラスは相変わらず自分の競馬に徹するだけのマイペース男であった。さらには新たな古馬のライバルも現れる。地方出身のカブトシロー産駒ゴールドイーグルが大阪杯にマイラーズカップと重賞を連勝中。ハイセイコー世代の生き残りということもあり期待を籠めるファンも多かった。また2年前の有馬記念を勝ったイシノアラシなども出走し新旧の勢力が入り乱れる層の厚いメンバーが集まっていた。人気はテンポイント、グリーングラス、ゴールドイーグル、イシノアラシ、クライムカイザーの順であった。トウショウボーイは出張馬房からこの戦いを見守る。

レースはゴールドイーグルがスピードを生かして逃げ、テンポイントは中団に控えその後ろにクライムカイザーとグリーングラスがつける形となる。トウショウボーイ不在の中、最有力として目されるテンポイントがマークされる立場になっていた。テンポイントは4角にかけて徐々に進出するとそこへクライムカイザーが襲い掛かる。両者馬体を併せて直線に入り、内側からは虎視眈々とグリーングラスが菊花賞の再現を狙う。しかし目標は日本一、このメンバー相手に後れを取るわけにはいかないテンポイントは王道の競馬で力強く抜け出し後続馬を完封。後方から追い込んできたクラウンピラードとホクトボーイが2着と3着。グリーングラスはその2頭に差されての4着、テンポイントに早めに競りかけてきたクライムカイザーは5着と敗れた。出走馬14頭中TTG世代は8頭出走し、上位7頭までを独占するなど世代のレベルの高さを証明する結果となった。逃げたゴールドイーグルは距離が長かった為か最下位に終わってしまった。

念願の初タイトルとなったテンポイントであったが、この時はトウショウボーイ不在である。真の日本一となるにはやはりトウショウボーイを破ってこそ。トウショウボーイは宝塚記念で復帰を予定しており、テンポイントも打倒トウショウボーイの為に宝塚記念を目標とするのであった。グリーングラスとクライムカイザーも同様に宝塚記念へと駒を進める。

ハイレベル宝塚記念

この世代の主要メンバーであるトウショウボーイ、テンポイント、クライムカイザー、グリーングラスがついにタイトルホルダーとして顔を合わせる宝塚記念。他の大したことのない馬達は勝ち目がないとみなして続々と出走回避していった。残ったのは他に天皇賞春で3着に入ったホクトボーイと前年の天皇賞馬で春に目標レースが他になかったアイフルである。たった6頭ではあるが8大競走で通用する馬しか出走することを許されない超絶ハイレベルなメンバーとなった。ホクトボーイだけ若干場違い感があったかもしれないが。

ただトウショウボーイは休み明けで慣れない関西生活で状態はあまりよくないために陣営も弱気だった。方やテンポイントは充実期を迎えており地元の関西圏では負けられないと息巻いていた。ファンの後押しもあり1番人気はテンポイント、2番人気にトウショウボーイ、以下グリーングラス、今回が引退レースとなるアイフルと続いた。

レースは小頭数のため好スタートを決めたトウショウボーイに誰も競りかけずに逃げの形になり、テンポイントが2番手、以下グリーングラス、アイフルが続き、ホクトボーイとクライムカイザーが後ろから進める。道中でも競りかけることもなかったので前半はスローペースに。これを嫌ったのはグリーングラスで向こう正面から差を詰めにかかることでレースは一気に動き出す。この動きにつられてテンポイントも前を行くトウショウボーイに並びかけ、トウショウボーイも抜かせまいとペースを上げる。ここからTTG3頭の戦いが始まり後ろの馬は全くついていけなくなる。直線に入りトウショウボーイが1馬身抜け出し、テンポイントは追い縋るも離されないようにするのが精いっぱい。この2頭についていけないグリーングラスは徐々に離されていった。スローからのスピード勝負はトウショウボーイが最も得意とするところで残り1000mからのラップは57.6と当時の1000m戦の日本レコードよりも速いタイムであった。こんなタイムで走られては他の馬はなす術がない。このままの態勢でゴールインと、見た目としてはスタートの隊列がそのまま最後まで変わらなかった盛り上がりに欠ける結果となった。しかしその中身は非常に濃ゆく当時のラップ厨や指数厨にとってはTTGの偉大さを示す伝説的なレースとなり語り継がれる事になる。

ここで全く相手にならなかったクライムカイザーはこのレースを最後に引退。結局ダービーを勝って以降は善戦しても勝つまでには至らず、フロックではないことを証明する事は出来なかった。こうして後世の歴史書には元々TTCと書かれていたのがTTGCになり、そこからもCの文字が取り除かれることになる。でもダービーの時点では間違いなく世代トップの実力だったことは間違いない。

名馬達の夏休み?

天皇賞を勝ったテンポイントのところへワシントンDCインターナショナルの招待状が届く。念願の海外遠征イベントが発生したのだ。しかし宝塚記念ではまたもやトウショウボーイに負けてしまい、日本一の競争馬の夢はまだ未達成である。天皇賞を勝ってしまったテンポイントは秋の天皇賞には出走できない為、年内で対戦するチャンスがあるのは恐らく年末の有馬記念のみ。悠長に海外遠征をしていたら勝てないだろうと判断した陣営はこのイベントを辞退する。代わりに待っていたのは昭和の少年漫画のような特訓の日々であった。もはや長距離向けに調整する必要はなくトウショウボーイのスピードに対抗するためにムキムキ筋肉トレーニングを始めるのであった。具体的には当時欲しかった坂路の代わりに重りをつけて調教し、時には80㎏の斤量でトレーニングしていたという。これによりデビュー当時450㎏程度だった馬体が500㎏弱になるなどムキムキマッチョに成長し、陣営は秋の再戦に向けて自信を深める。

グリーングラス陣営はこのまま実績のない安田富男を乗せ続けていてもTT相手に勝ち目は薄いと判断。関東のトップの一人で大レースでも結果を出している島田功を鞍上に日本経済賞(現日経賞)に挑むことになる。せっかくの名馬を降ろされてしまった安田富男は新たなパートナーを見つける。目黒記念でグリーングラスを破ったカシュウチカラだ。グリーングラスの特徴をよく知る騎手と一度破った実力馬がタッグを組めば十分勝ち目はあるとグリーングラス陣営に一泡吹かせようとたくらむ安田であった。しかしレースでは狭いところを無理に突っ込み1コーナーで不利を受けて落馬してしまう。最大のライバルが勝手に消えた為グリーングラスにとっては楽な競馬となり圧勝、格の違いをわからせる。この後は秋の天皇賞を目指すべく休養に入る。

トウショウボーイは宝塚記念で復帰したてのためまだまだ走り足りなく、返す刀で高松宮記念へ出走する。さすがにトウショウボーイの相手をできるような馬はテンポイントの姉であるオキワカ姉さん(条件馬)くらいであった。苦手の不良馬場で斤量62㎏とトウショウボーイにとっては苦手な条件も重なっていたが単勝1.0倍の支持に応えて楽勝する。この後は歯ごたえのある挑戦者を求めて札幌短距離Sで当時イケイケのヤング3歳馬(旧4歳)であったマルゼンスキーと対戦予定を組むが、膝を痛めたため回避する。このレースを勝ったマルゼンスキーは有馬記念に出走予定だったが、この後は脚部不安によりTTGと対戦することなく引退となるのは有名で残念な話である。

秋の天皇賞戦線

秋の天皇賞の有力馬とされたグリーングラスはコンスタントに使われてきた疲れが出たのか夏負けしてしまい、復帰に手間取ってしまう。結果前哨戦を使う事はできずに天皇賞に直行となった。トウショウボーイは重い斤量を嫌って調教代わりに平場のオープンを見習い騎手の黛幸弘で出走する。ただのタイムアタックとなったこのレースは1.33.6と日本レコード勝ち。(このレコードは翌週に1.33.5とすぐに更新される)改めてスピード能力の高さを証明し、既に年内で引退種牡馬入りの争奪戦が始まっていた。

関西ではテンポイントがムキムキの体で京都大賞典に出走する。63㎏の斤量が不安視されるが筋肉の鎧を身にまとった今では容易いハンデだ。秋の天皇賞を目標にする関西馬にいっちょ稽古をつけてやろうかと2番人気のホクトボーイ以下に胸を貸す。結果はテンポイントの8馬身差圧勝。斤量差とは何かを考えさせられる結果となった。化け物的な暴力を見せつけられたホクトボーイはここでは惨敗してしまうが、次の京都記念は1番人気に応えてきっちりと勝ち切り、関西代表として秋の天皇賞へ東上する。テンポイントはこの後平場オープンを走り、過去の関西のエース格であるロングホークおじさんにも稽古をつける。ロングホークおじさんにとっては最後となる可能性の高い天皇賞を前にTTG世代の筆頭の力をまざまざと見せつけるのであった。

関西ではもう一頭、春の天皇賞2着馬でテンポイントの稽古を避けて先に東上していたクラウンピラードが軽ハンデのブルーハンサムに負けるも目黒記念2着と上々の走りを見せる。3着はカシュウチカラとTTG以外の世代のメンバーも古馬として徐々に頭角を現してきていた。まるで少年漫画のぽっと出のキャラが徐々に出番を増やしていくようなイメージである。

そして秋の天皇賞は既に伝説扱いされる天馬トウショウボーイが圧倒的1番人気、唯一対抗できると目されているグリーングラスは臨戦過程が不安視され3番人気。春の天皇賞2着のクラウンピラードが2番人気でテンポイントに稽古をつけられたロングホークおじさんとホクトボーイがそれぞれ4、5番人気、カシュウチカラが6番人気となった。

レースはドウカンヤシマがペースを作り、みんなのライバルトウショウボーイが2、3番手につける。島田功の乗るグリーングラスはぴったりと1馬身後ろに位置取りしっかりとマークする態勢。クラウンピラードその後ろ、ホクトボーイは後方から他の有力馬を眺める位置でレースを進める。動きがあったのは向こう正面でドウカンヤシマがペースを落としトウショウボーイが先頭にたったところでグリーングラスが馬体を併せる。そこで一気にヒートアップしてしまい2頭が他の馬を突き放し始め、クラウンピラードもそれについていく。途中でクラウンピラードの佐々木昭次はあれ?ちょっとペース早くね?と思い息を入れるが、トウショウボーイとグリーングラスの競り合いはまだまだ続きそのまま直線へ入る。このまま2頭のマッチレースになるかと期待されたがさすがに無理がたたりペースダウンしてしまい最後の直線で仲良く逆噴射、クラウンピラードが内からホクトボーイが外から襲い掛かる。道中じっと我慢していたホクトボーイが展開の利を得て見事に差し切り優勝。少し釣られてしまったクラウンピラードが2着となった。グリーングラスは5着、トウショウボーイは7着とデビュー以来初の大敗となってしまった。

トウショウボーイもなんだかんだでダービー、菊花賞、そして天皇賞と大レースで取りこぼしが多い。調教師の保田は大レースでは運がないといい、このレースに騎乗していた武邦彦は馬場と展開に泣かされたといった。常に大レースでは目標にされてしまい、ライバルも強力な為仕方ない。これが時代の名馬たる宿命なのだ。グリーングラスも休み明けであり馬が過剰にエキサイトしてしまったためこのような展開になってしまった。トウショウボーイを意識せずに自分の競馬に徹する事が出来ていれば結果は違ったであろう。屈辱の結果に終わった2頭は有馬記念で巻き返しを狙うのであった。

ホクトボーイは出世こそ遅れたが古馬になってから着実に力をつけ、TTGCに次いでビッグタイトルを獲得する。伝説の宝塚記念もホクトボーイがタイトルを取ったことにより、出走馬全てが8大競走勝馬で構成されるという伝説のレースとして箔がついたのであった。この後は連戦続きだったこともあり、有馬記念には出走せずに勝ち逃げする。

伝説の終章、有馬記念

天皇賞の後、トウショウボーイは有馬記念を最後に引退し種牡馬入りすることが正式に発表される。テンポイント陣営は目標である日本一、つまりは終生のライバルを倒すラストチャンスである。これ以外にも無敗のイケイケヤングなマルゼンスキーが有馬記念に出走予定となっていた。勿論グリーングラスも、他には菊花賞馬のプレストウコウも出走予定していた。あまりのレジェンド級の競争馬ば集まったため、中堅レベルは挙って回避して小頭数での開催となる。脚部不安を発症していたマルゼンスキーも出走に向けて懸命に調整するも直前で出走回避しそのまま引退となった。

本命は充実の秋を迎えていたテンポイントであり、天皇賞で醜態をさらしてしまったトウショウボーイが2番人気、マルゼンスキーのいなくなった3歳馬を代表して出走してきたプレストウコウが3番人気で、グリーングラスが4番人気でそれ以下はかなり離れた人気となった。

トウショウボーイに確実に勝つべく、テンポイントは秘策を用意していた。それはトウショウボーイより前で競馬する、つまり逃げる事である。今回も小頭数でありスローペースが予想されるため、スピード能力で上回るトウショウボーイに勝つには後ろで競馬をしていては追いつかないと判断して逃げを選んだのだ。そしてレースは始まりテンポイントが押して前に行こうとするが、トウショウボーイが好スタートと内枠の利であっさりハナを奪う。こうなると作戦通りとはいかないがテンポイントは無理に競りかけずに2番手、逃げ宣言をしていたスピリットスワプスは2頭にはついていけずに3番手で進む。2週目の第一コーナーでコーナーワークを利用してテンポイントがトウショウボーイに並びかけるところからレースは動き始める。競りかけられたトウショウボーイがペースを上げ、テンポイントも引かずに2頭で後続を突き放し始める。抜きつ抜かれつのマッチレースの様相が展開されるが、こうなると共倒れになった天皇賞の二の舞になると思ったトウショウボーイが引いたか、テンポイントの能力が上回ったのか4角ではテンポイントが優勢に。トウショウボーイも粘るがじりじりとテンポイントがリードを広げる。そこを中団で脚を溜めていたグリーングラスが猛追、一時は躱す勢いで差を詰める。しかし上位2頭には追い付かずTTG最後の真っ向勝負はテンポイントに軍配が上がる。このレースは今なお日本競馬史上のベストレースとして最有力の伝説の有馬記念となった。

この年は7戦6勝2着1回のテンポイントが満票で1977年の年度代表馬に選ばれる。これで名実共に日本一となった。グリーングラスは来年以降も現役続行するが、TTGの中心を演じ続けたトウショウボーイは予定通り引退し種牡馬入り。こうして一つの時代は終止符を打ち、TTGもそれぞれの次の舞台に進むのであった。

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